第40回<昭和33年>全国高等学校野球選手大会

県予選

<準決勝> 県和商 0-1 海南
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
県和商 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
海南 0 0 0 0 1 0 0 0 × 1

 県和商福塚投手は低目をつくカーブがよく決まり、海南宗選手は得意の外角低目の速球を慎重に配して共に安定した投球で1点を争う試合を続けた。5回海南は無死、榎本が中前安打し宇治田の投匍で二進した後、中野が0-2の後、適時安打を放ち榎本一挙に生還1点を先取した。海南は福塚投手から奪った安打の中2安打をうまく5回に生かしたのに対し県和商は初球を狙い積極的に宗投手を攻め8安打でしばしば好機を作りながら肝心の決定打が出ずゲームを失った。中でも3回一死後、三塁強襲安打に出た雑賀が入口のライナーの右前安打を野手にとられたのと誤認し二塁に封殺されたのは惜しまれる。

<準決勝> 新宮 0-1 田辺
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
新宮 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
田辺 0 0 0 1 0 0 0 0 × 1

 優勝候補の新宮が田辺にうまく打棄られた番狂わせの一戦だった。田辺は主戦西田、新宮はリリーフの杉本が先発、共に立ち上がりは良かったが、杉本は遂に4回に打たれた。この回田辺先頭の鶴田が右中間二塁打に出て守田の右前安打と脇村の四球で無死満塁として橘の左犠飛で鶴田が生還、この先取点に気をよくした西田投手はドロップ、カーブを多投して新宮打者のタイミングをうまく外して二塁を与えたのは二塁打の山崎だけ、これというチャンスを新宮に許さず最少得点を守りきった。

<決勝> 田辺 2-6 海南
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
田辺 0 2 0 0 0 0 0 0 0 2
海南 0 0 3 0 0 3 0 0 × 6

 海南宗、田辺西田両投手共に滑り出しは良かったが2回田辺は一死後、橘が三匍失続く黍野の三匍は三塁手からの送球を二塁手が落として走者一、二塁田辺にとっては絶好のチャンスを迎えた。田中の一打は二塁カンバスの右を鋭く抜き外野に転々とする三塁打となり2者生還、続く西田とのスクイズは打球がきつく田中本塁寸前にアウトとなった。海南は2回無死、走者を出したが無為、3回二死後羽根四球でこの日の当たり屋榎本が0-1の後の真中に入る低目の直球にバットを合わせ球は右中間深く転々羽根に続いて榎本俊足を飛ばして2者生還同点とした。
 気をよくした海南は四球の宇治田を置いて中野が左翼線ぎりぎりに二塁打し平野の左前安打で宇治田生還、遂に1点リードした。
 これで海南宗投手は立ち直ったのに反し球速の落ちた西田投手から6回寺田、中村安打し、宗に送られ二、三進後、北野の一撃は二塁横を抜き寺田を還した。ここで田辺は投手を橘に切り替えたが羽根の三匍を三塁手本塁低投、バックネット近く転々とする間に中村、北野相次いで生還。だめ押しの3点を加えた。田辺は宗投手の球にバットが合わず凡退を繰返し8回代打洞が5イニング振りに左前安打を飛ばしたが後続なく、9回最後の攻撃も二死後、守田右前安打したが脇村二匍でゲームセットとなった。

全国大会

<本大会の記録>

40周年を記念して各都道府県代表47校を集めて甲子園、西宮両球場を使用して行われた。

<1回戦> 福岡 1-14 海南
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
福岡 0 0 1 0 0 0 0 0 0 1
海南 2 2 0 0 6 0 4 0 × 14

 海南打線は定評通り素晴しく迫力があった。安打は長短あわせて19本、5回で全員安打、全員得点を記録するすざましさ。1回先頭の左打者榎本が外角球を左前安打しニ盗、中野も左前安打した。この時野手の返球が悪く榎本生還、寺田も左前へたたいて中野を迎えた。福岡の先発投手山下はカーブ、シュートを武器にコーナーワークを生命とする技巧派。この試合も配球に苦心のあとが見られたが球威がなかった。海南は2回榎本の三塁打で2点を加えすっかり自信を固めた。5回一死後、宇治田から5打者連続して安打を放ち福岡ベンチもたまらずプレートを吉田に代えたが、海南は更に宗が四球で歩いた後羽根、北野がクリーンヒットを連発して大量得点をあげ大勢を決した。福岡は前半バットを短く持ち宗投手の外角球をうまく右へ流したが宗はそれ以後内角を攻めて福岡の外角打ちを封じ頭脳的なピッチングを示した。

<2回戦> 海南 6-4 尾道商 
  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11
海南 0 0 0 4 0 0 0 0 0 0 2 6
尾道商 0 1 0 0 1 0 0 0 2 0 0 4

 宗は第一戦福岡を押えたような頭脳的な冴えは少しもなくボール数も多くこの虚をついた尾道は2回竹中兄が二塁右に安打、捕逸で二進、木村、清水のバントは何れも野手の虚をつく安打となって先制の1点を挙げた。この後尚一死一、三塁のチャンスだったが串畑3バント失敗から追加点を逸した。一方海南は4回トップの榎本が二塁左を抜き寺田のバントの後中野が風に幸された右前安打、宗、中村が四球で押し出しの1点を拾い、北野が第1球を狙って中前に快打、更に四死球が続いてこの回4点の収穫を挙げた。宗投手もこれに気をよくして尾道懸命の追撃を押さえて逃げ込み策に出たが、そのプレートは全く不安に見えた。
  5回上野、谷重、箱崎の集中安打に1点を返し元気づいた尾道は後半、毎回得点圏内に走者を送り持ち前の粘りを発揮して攻めに攻めた。最終回一塁に走者を置いて竹中兄の放った右前安打は野手後逸し一挙生還、この間に三進した竹中兄はスクイズで還り待望の同点に追いつき満場騒然、けれども矢張り球運は尾道についていなかった。海南は11回三塁失に出た寺田が二進後、この日の当たり屋中野の左前適時打と平野の三遊間安打で決定的な2点を奪ってさしもの熱戦に終止符を打った。

<3回戦> 海南 1-0 姫路
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
海南 0 0 0 0 0 0 1 0 0 1
姫路 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

 7回寺田殊勲の長打で奪った1点を宗の快打で辛勝した。海南宗も姫路井上も共に力溢れるピッチングを見せた為、両軍打線は容易に打ち崩せず宗は一見細身で非力と思わせるが柔軟な全身を使っての上手投げから鋭いシュートと外角低目をつくカーブの球の配給よく打ち気で向かってくる姫路打線を巧みにかわしていた。海南は遂に7回一死宗安打、北野四球でチャンスを迎えた。ところが宗は井上-井村の巧みなけん制球に刺殺されて逸機するかに見えた。井上ほっと一息ついたというわけではなかろうが寺田に1-1のあと外角高目の力のない球を投げて左中間に長打されて、ここで0-0の均衡は破れてしまった。彼にとっては心残りの一球だったろう。後半も必死に食い下がったが遂に海南の堅陣を破れずに敗退した。

<準々決勝> 海南 3-4 柳井
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
海南 2 0 1 0 0 0 0 0 0 3
柳井 0 0 1 1 1 0 1 0 × 4

 両チームの打棒大いに振い活発な打撃戦を展開した。もっとも海南宗も柳井友歳も疲労から日頃の球威を欠いたことが両チームの打力を誘う原因となった。海南は1回榎本二匍失、中村三匍三塁手の悪送球が右中間に転々とする間に榎本還えり中村三進後、スクイズを警戒して前進守備を布いた逆をついて平野打てば二越安打となって幸運な2点を先取した。3回には好打者榎本右中間を抜き駿足を飛ばして本塁打とし更に1点を追加した。しかし宗の投球には伸びがなく柳井のしつこい攻撃に5回で同点とされてしまった。即ち3回柳井の棟居が三塁線にバントを企て内野安打とし藤山の左前安打で一、二塁、一死後、黒瀬のうまい右前安打で1点、4回にも友歳兄内野安打、久保のバントで二進後、岡村三塁不規則バウンドのヒットで1点を追加し、5回には黒瀬の右中間三塁打と佐々木の一塁不規則バウンドの安打で同点とし試合を振り出しに戻してしまった。
 海南は4、6回いずれも得点圏に走者を出しながら打順が下位のため得点にならず試合は柳井のペースで進められた。7回一死満塁となって友歳兄の遊匍で追加点を挙げたが、この当たりは平凡なゴロで当然本封できたにもかかわらず三封してむだむだ1点を与えたのは宇治田のボンヘッドで、これが海南の命取りとなってしまった。海南は宗が打たれて勝手が狂い得意の打力も振わなかったが、その中で榎本本塁打、平野の3安打は敗れた海南の中にあって気を吐いたものであった。