第43回<昭和36年>全国高等学校野球選手権大会

県予選

<準決勝1> 橋本 1-4 向陽
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
橋本 0 0 1 0 0 0 0 0 0 1
向陽 1 3 0 0 0 0 0 0 × 4

 立ち上がり広畑投手が制球に苦しむところを向陽はうまく攻めた。初回山本(芳)、吉水が四球に歩き、重盗に成功した無死二、三塁のチャンスに植田の左犠飛でまず1点。2回は坂口の安打、一死後、柴田の四球で走者一、二塁と攻めつけ、二死後、山本(芳)の右飛が野手の悪判断で二塁打となる間に2者生還、さらに吉水、植田の安打がつづいて、この回3点を加えた。
 橋本もすぐ反撃、3回表、無死で森中(筧)が安打、すぐに二盗、山藤も四球で歩き、木下の一、二塁間安打で1点をかえした。後半にはいった6回、先頭打者木下が中前に安打、追加点の好機を迎えたが強攻策が失敗、7回にも小寺の代打堀端が無死で四球を選び、井上の投前バントで二進したのに、後続を断たれた。5回以後広畑が立ち直って好球しただけに2回の失点が大きくひびいた。

<準決勝2> 桐蔭 1-0 県和商
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
桐蔭 0 0 0 1 0 0 0 0 0 1
県和商 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

 数少ないチャンスに唯一の安打が出て、桐蔭の勝利は幸運に恵まれたものであった。4回表、無死四球で芝田が歩くと、手堅く小川がバントで送り、池田が三振に倒れたあと森川が初球の外角球をうまく左中間に安打、芝田が二塁から一挙生還、これが決勝点となった。
 これにひきかえ県和商はたびたびの好機を迎えながら、森川投手をどうしても打ちくずせなかった。 
 1回表、トップ駒坂が左前安打しながら投手のけん制球に刺され、その後岡室、原田の安打が出たが無得点。毎回のように走者を出し、最終回には小島、安行の安打と高松の三前バントが野選になり、無死満塁と勝ち越しのチャンスを迎えながら、鈴木が三振、辻本のバントが三飛となり併殺を喫して万事休した。試合内容は県和商が圧倒的にすぐれていただけに、あきらめきれぬ敗戦だった。

<決勝> 向陽 0-4 桐蔭
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
向陽 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
桐蔭 0 0 0 0 2 2 0 0 × 4

 桐蔭はうまい攻撃で5回裏2点を挙げ、試合の主導権を握った。この回一死後、武田が右中間に二塁打、田村が手堅くバントで送り、続く左打者芝田が三塁線にうまいセーフティバントして武田が生還。さらに小川が初球を左翼越えに二塁打し、芝田も還って2点。6回にも一死後北谷が一、二塁間に安打、中谷四球の後、二死後武田が右前に安打、野手が後逸する間に一挙に2者生還、2点を加え勝敗を決めた。
 しかし前半は全く互角のスタートだった。津田は一球一球球質を変えて内外角に投げ分け、森川も落差のあるドロップと速球で打者を追い込んだ。2回裏桐蔭は一死後、北谷の四球、中谷の三遊間安打で先制機を迎えたが後続なく、向陽も3回表、無死浜野が遊越え安打したが柴田のバントは投ゴロになって併殺、その直後に田村の左中間二塁打が出るチグハグな攻撃で無為。
 向陽は後半、6回半ばから投手を寺前に切り替えて桐蔭の打線を抑え、4点リードを追ったが、森川の力投に反撃の糸口をつかめず、6回以後走者を出すことができずに敗退した。それにしても3回に先取得点していればどうなっていたかわからなかっただけに惜しい逸機だった。

<紀和決勝> 桐蔭 1-0 御所工
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
桐蔭 0 0 0 0 0 1 0 0 0 1
御所工 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

 両チーム無得点の均衡は敗れず後半の6回表を迎えた。この回、桐蔭の先頭打者はトップ左打者芝田、御所工岡本投手の初球を右前へ快打、次打者小川は2-2からのスリーバントは失敗して走者を二塁へ送れず、3番池田は果敢に初球を打って遊撃の深いゴロで芝田が2封されて二死、強打者森川を迎えて岡本投手緊張した表情、1-0後の2球目、内角直球を森川が思い切ってたたくと打球は糸を引くように右中間のど真中を外野のフェンスへ転々。一塁走者池田は二、三塁を回ってしっかりとホームベースを踏む。森川もゆうゆうと三塁へ・・・・遂に待望の1点をとった。
 それまで手に汗にぎる投手戦だった。初回森川は固くなったのか、トップ高野を四球で歩かせ、石原に絶好の三前バントを許し、一打1点のピンチに立った。しかし、林の二ゴロ、岡本を三ゴロにとって得点を許さず、4回にも一死後林に中前安打されたが、先取点をねらって二盗を試みたが田村の好送球で刺し、乗ずるすきを与えなかった。桐蔭も2回無死で森川二塁内野安打、北谷のバントに送られた直後三盗し、中谷との間のスクイズ失敗、三本間で挾殺、4回には無死中前安打の小川を一塁に置きながら後続なく、どうしても1点がとれない。
 この1点をめぐりさすがに連続出場をねらう御所工、油断はできない。桐蔭はさらに追加点をねらい8回には芝田が一死後三遊間を破り、小川のバントで送られたが池田が凡退。9回にも北谷が鋭いランナーの中前安打し、捕逸で二進したが後続をたたれた。
 御所工最後の攻撃、栄冠を目前にひかえたこの回トップ石原遊撃内野安打、次打者はこの日2本の快打を放っている強打の林――最大のピンチだ。3球目、林のバットから快打が出た。白球が鋭いライナーになって中前へ・・・・・しかし中堅池田の懸命な前進によって地上寸前で好捕。石原は帰塁しようとしたがよろめき、矢のように一塁へボールが返って併殺。スタンドからは安心と残念を織りまぜた長いため息がもれる。つづく岡本も1-3とねばったが平凡な二ゴロ。ウイニングボールは一塁手北谷に送られた。抱き合って喜ぶ桐蔭の選手、じっとうなだれる御所工のナイン。劇的な終幕だった。
 桐蔭は13年ぶり、19回目の甲子園へ。

全国大会

<1回戦> 桐蔭 3-0 海星
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
桐蔭 0 0 1 0 0 0 2 0 0 3
海星 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

 中堅クラスとしての活躍を期待されていた海星が、桐蔭の前にもろくも敗退した。得点差の3-0が示す通り、内容のうえでも桐蔭が一方的に勝っており、攻守に海星を倒しての勝利は実に堂々として文句のないものであった。
 桐蔭を有利に導いた3回の1点は無死左打者の田村が死球にめぐまれ、、芝田のバントで二進、さらに捕逸が加って三塁を占め、打者小川の第3球、絶好のスクイズ・バントで田村がホームを踏んだ。さらに7回には四球の北谷がバントと遊ゴロで三進、第1球をねらった武田の右前打、田村の左越二塁打で決定的な得点が記録された。小柄な左腕投手森川の好投も桐蔭の勝因として特筆せねばなるまい。制球力があり、右打者の内角低目をつく直球、外角いっぱいに逃げるシュート、緩急おりまぜたカーブなど変化に富んだコーナー・ワークで海星打線を4安打無得点に押えた。この森川を盛り立てる守備力も日頃の訓練をよく現わして大きなくずれをみせなかった。

<2回戦> 秋田商 0-1 桐蔭
  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
秋田商 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
桐蔭 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1 1

 左腕森川は4回までなかなかの快球で秋田の進撃を阻んだが、味方もまた今川に抑えられてまずまず勝負は5分と5分の形勢で前半は終った。4回裏桐蔭が無死一、二塁という絶好機をつかみ森川の中堅の快打で二塁走者、本塁をついたが、川村の好遠投でホーム寸前で刺されたのは惜しい。逸機というべきだが、これは川村の美枝と称すべくやむを得なかったと思う。
 今川、森川の投手戦は5・6・7回と続き桐蔭の4安打、秋田の1安打では得点の目あてはなかなかつきそうもない。表面に浮び出る戦況では安打4を放っている桐蔭がやや有利らしく見えるが、今川の急所をしめる手腕には無形の力を認めなければならぬから得点を握るまではどちらも油断がならない。試合は大型といわれないが、実に熱戦だった。試合は10回まで延長され、最後の場面は桐蔭の二死二、三塁の走者でこの回も当然ゲームは11回まで持ち越されるものと予想されたとき、ラストバッターの田村が殊勲の一打を中堅に放って秋田にとどめを刺した。さすがに今川も武運のつきるときはどうにもならぬものか、投げそこないではなく打者の虚をついたのだが、田村のバットに引っかけられ敢えない最後を遂げた。この試合の両軍は文字通りよく守り非のうちどころがなかった。欲をいえば、どちらも準々決勝に出したいようなチーム振りであり、秋田の惜敗に同情を禁じ得ない。

<3回戦> 福岡 0-5 桐蔭
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
福岡 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
桐蔭 1 0 1 1 0 0 2 0 × 5

 終始桐蔭が押しぎみに試合を進めた。桐蔭は1回一死後小川は三遊間安打で出て二盗、さらに北谷右前安打、森川四球で満塁と先行機をつかんだ。続く武田の大きく打ち上げた中犠飛で小川がかえって先取点をあげた。さらに3回も先頭の芝田が投前バント内野安打で出ると手堅く小川がバントで送り、北谷の遊ゴロで三進した後、森川の二塁左内野安打で芝田を迎えて1点を加えた。1回は足を生かし、3回にはバントをうまく使って得点に結びつけたあたり定評通り桐蔭の試合運びのうまさを裏付けた。
 福岡の五日市投手は外角に流れるカーブを効果的に使っていい投球をしていたが、走者が塁に出ると球速が落ち、また高めに浮いて打ちごろの球になっていた。桐蔭はその後も攻撃の手をゆるめず、4回には中谷が四球で出たあと吉原の左中間二塁打で1点。7回に北谷・森川の連続三塁打で五日市投手を打ちくずし、中谷のスクイズバントなどで決定的な2点を追加した。
 福岡は森川投手のうまい投球に手が出ずわずかに1安打、3回一死後小保坂が中前に安打しただけ、左投手の内角に食い込む大きなカーブに手を焼いたのだが、球をひきつけ鋭い振りをしていればもっと打ち込めただろう。いずれにしても研究不足だった。だが9回森川投手の制球難につけ込み村田・山崎・小野寺が四球で満塁とはじめての好機をつかんだが、後続打者がいずれも凡退してついに得点をあげられなかった。好チーム桐蔭を相手に最後まで試合を捨てなかった福岡の闘志とまじめなプレーぶりは好感が持たれた。

<準決勝> 岐阜商 4-5 桐蔭
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
岐阜商 0 0 1 0 0 0 0 0 3 4
桐蔭 0 0 0 0 0 0 2 2 1 5

 3回岐阜が1点先取しただけで、6回までは試合内容も乏しく、たんたんとして準決勝にしては物足りないものであった。ところが7回桐蔭が見事な逆転を見せ、8回には更に決定的とも思える2点を追加した。桐蔭の左腕森川の投球からみてこのまま押し切るかに見えたが、粘りの岐阜商は9回一死から失策に次ぐ連安打で2点、スクイズでさらに1点を加えて同点としたため場内はわき、ようやくにして準決勝らしくなった。
 しかし、これも束の間、桐蔭は9回裏3たび長繩と代った前田から田村が四球を運び、投手の一塁けん制球悪投で二進、芝田の投前バントを前田投手が三塁へ投げて野選、走者一、三塁とし、打者小川1-2のとき前田第4球目を暴投してあっけなく勝負がついた。終回近くわいたこの試合は6回までは凡退にひとしいもであった。岐阜商は3回一死前田の三塁打とスクイズで先取点をあげた。
 一方桐蔭は岐阜商先発前田がはげしく上体をひねった投げるわりにスピードがない投球にタイミングが合わず6回一死までわずか1安打という貧攻、ところが北谷二ゴロ失に出たとき、岐阜商は前田を退けて、左腕の長繩を救援に送り、彼の巧みな一塁けん制球でこの回を切り抜けた。
 試合も余すところ3回、岐阜商予定の継投策で、3回の貴重な1点を守りきるかのような形勢でもあった。岐阜は右翼に代った前田をプレートに呼びもどし長繩を右翼にして桐蔭の目先をかえてきた。ところが武田が遊撃に安打してバントで二進したとき再び岐阜は長繩をプレートに送ったが、吉原は2-1と追いこまれた後、内角球を見事三塁線に安打して同点。さらに池田も右翼に快打して一、三塁とし田村のスクイズで逆転した。これに勢いを得た桐蔭は8回小川から三塁前安打して悪投で二進、北谷はよくねばり、11球目に四球を奪い、森川のバントで二、三塁、武田敬遠の四球で満塁、つづく中谷三振後、吉原の快打で2点を加えた。ところが9回岐阜商は3点をばん回したが、この裏桐蔭のねばりに屈服した。
 岐阜商はせっかく先取しながら8回森川のピッチングに対し、あまりにも強引に振り回したのが貧打の因でもあり、敗因だった。とかくねばりにねばり遂に岐阜商を退けた桐蔭ナインの闘志は賞したい。

<決勝> 浪華商 1-0 桐蔭
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
浪華商 0 0 0 0 1 0 0 0 0 1
桐蔭 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

 大観衆スタンドを埋め、決勝戦としてはまれにみる威感。まことに晴れの決戦場であった。浪商は地元であり、桐蔭は隣接地で、ゆかりのファンが多いからであろう。
 終戦後唯伏何年の桐蔭が、大敵浪商を向こうに回してこの一戦、桐蔭森川の左腕がどこまで浪商打線をおさえるか、桐蔭の打者が大豪尾崎の速球をどこまで打ち込めるかが興味の中心にあった。1・2回森川はやや高めの球を2安打されたが、桐蔭の内外野は微動だもせず。順調なスタートぶりはきわめてたのもしい。
 4回まで両軍得点を見ずに過ぎた。大観衆は桐蔭の善戦にわき立っていた。5回初めて浪商が得点した。浪商は尾崎の右翼当たりそこねのヒットを足がかりとして高田・脇田の安打から桐蔭の守備少しく乱れるに乗じたスコアーで、桐蔭のためには惜しまれる1点だった。だが、桐蔭はいささかもひるまなかった。尾崎のスキのない好投にはなかなかつけ込めなかったが、1点の差で守り抜いた健気な死守ぶりは天晴れといっていい。捕球も法にかなっており、小粒ではあるがしんが通っているプレーぶりはこれまで進出したゆえんでもあろうが、高校野球として大いに推奨するに足ろう。打法も尾崎に対してかなり考え、無理もなかったが、何にしても尾崎の力は上回っており、どうにもならなかった。けれどもここまで奮戦すれば思い残すことはあるまい。森川必死の投球が浪商の上位打線を巧みにくぐり抜けたのが最小限に得点をおさえたのであるが、内外野の守備もまずまず上々であり、その昔の和中の面影をしのばせるものがあり、願わくば名門の復活を念じたい。