第45回<昭和38年>全国高等学校野球選手権大会

県予選

<準決勝1> 和工 2-3 南部
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
和工 0 0 0 0 0 0 0 0 2 2
南部 0 0 0 0 0 0 1 2 × 3

 和工は実に惜しかった。3ー0とリードされた9回表最後までのチャンスに無死で吉野、辻が連続ヒット、つづく中谷の二塁打と、南部・西垣投手の暴投で2点をあげ、なおも無死三塁と攻めながら後続なく、無念の涙をのんだ。優勝候補南部をここまで苦しめたことには、満場から感嘆と称賛の拍手がアラシのようにわき起った。
 中盤までは全く対等の試合だったが、7回表、和工の遊撃手が手痛いエラーを重ねたことから均衡はくずれた。この回南部は一死後垣渕が遊撃ゴロ一塁悪投に生き、畑崎の二塁ゴロで二塁へ、次打者皆瀬が再び遊撃前へ鋭いゴロを放つとこれがトンネルで左翼前へ抜けたため、垣渕懸命のの力走でホームイン。8回には急に疲れを見せた辻投手から左飛失と2安打でさらに2点をもぎとった。南部の誇る大型打線が、あまりスピードのない和工・辻投手に手こずったのは大振りし過ぎてミート・ポイントが狂っていたためとみられる。また和工打撃陣は、疲れを見せながら急所をよく締める南部・西垣投手に三振12を奪われ、反撃を始めるのが少し遅すぎた。

<準決勝2> 海南 1-3 向陽
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
海南 1 0 0 0 0 0 0 0 0 1
向陽 0 0 2 0 0 1 0 0 × 3

 向陽は好守にはつらつとしたプレーをみせ、堂々優勝候補の海南を降した。1ー0とリードされた3回裏、向陽は2本の安打と四球で迎えた一死満塁の好機に林の三ゴロで三塁から野崎がかえり同点とした後、浜野の三遊間安打で桶谷もけり勝越し点をあげ、海南のエース山下を降板させた。
 勢いついた向陽は代わった下手投げの川端にもよく食い下がり、6回にも安打出塁の浜野を一塁において佐本が左越え二塁打を放ち1点を追加、海南を圧倒した。初回2本の長打を含む4安打を連ねながら、一塁走者が向陽・野崎投手の巧みなけん制球に刺されるなどの拙攻で1点しかあげられなかった海南は、リードを許してからあせり気味、7回無死一、三塁の好機もまたも野崎投手のけん制球で一塁走者が刺され無為、9回一死一、三塁も重盗の失敗で無得点に終り、向陽の倍近い13安打を放ちながらそのままずるずると敗れ去った。
 この日の海南は得意の足におぼれすぎた感じで、いつもの試合運びの妙は全くうかがえなかった。向陽の勝因は、落ちついたピッチングで要所を締めた野崎投手の好投もさることながら、しばしばむつかしい打球を処理して若い野崎を盛立てた守備陣の好守にあった。とくに1回と5回、絶好の返球で海南走者を本塁寸前に憤死させた桶谷中堅手の強肩は光った。

<決勝> 向陽 0-1 南部
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
向陽 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
南部 0 0 0 0 0 0 0 0 1 1

 劇的な幕切れだった。0ー0の均衡破れず、あわや延長戦かと思われた9回裏、二死走者二塁に3番打者谷上の放った一打はみごと右中間を破り、桶谷中堅手必死のバックホームも間に合わず、二塁走者片原が生還した。ぼうぜんとする向陽ナイン、おどり上がって喜ぶ南部のベンチ。
 この回先頭の柴田三振、このまま延長戦に入るかに見えたが、トップ片原2ー2から5球目中前安打、樫山は手堅く送ったあと谷上の決勝打が出たのはこの後だった。3球目、大屋が全力をこめて投げたカーブだったが高目に入ったのが谷上にとっては幸い、大屋にとっては不運だった。南部高にとって今大会いちばん苦しい試合だった。再三塁上をにぎわす南部打線も決定打が出ない。向陽・大屋は南部の西垣より球速においては落ちるが、ファイトはひけをとらない。決め球のシュートで、打ち気にはやる南部打線を打たせてとり、マウンドを死守した。彼を楽にしようと向陽の打撃陣も必死だが、6回無死一、二塁のチャンスをものにできなかった後は、全く西垣のペースに巻きこまれ三者凡退を繰り返すばかりだった。そして9回裏の1点に涙をのんだわけだが、向陽にしてみれば、ここまで死力を尽くして戦ったことに悔いはあるまい。ずばぬけたスタープレーヤーがいるのでもなく、前評判もさほどでなかっただけに、ナイン一丸となってきびきびとしたプレーが、練習できたえた実力を思う存分発揮し、高校野球の真骨頂を見せてくれたことに、県下の全野球ファンとともに惜しみない賛辞を送りたい。

全国大会

本大会の記録

<1回戦> 泉丘 0-2 南部
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
泉丘 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
南部 2 0 0 0 0 0 0 0 × 2

 泉丘の山下、南部の西垣ともに本格派で、評判通りの速球をもっていた。2人のちがいは山下は真向から投げおろすのに対し、西垣は少し手の振りが横から出ていた。そんな山下と西垣だが、2人とも荒い投球をした。特に立ちあがりの1回は制球が悪かった。泉丘は1回一死から野市一ゴロ失、小森中前安打、小野三振したが、山下四球で満塁と西垣を攻めた。しかし三浦は投ゴロ、いいチャンスを逃した。その裏、南部は片原左前安打、樫山のバントで二進したあと谷上のうまい右翼線三塁打で1点、続く坂口の一、二塁間好打でまた1点を山下から奪い先制した。
 この回の攻防の差は、西垣にくらべ山下の方がわずかだが、球にのびを欠いていたのと、泉丘打線が西垣の高めのボールに手を出したのにくらべ、南部打線が好球をみのがさずにあざやかにたたいたからである。
 2回から両チーム共絶えず走者を出したが、西垣はカーブが決まりはじめ、山下はシュートに活路を見出だして投げあった。勝負は初回の攻防が明暗を決めたわけだが、泉丘に惜しまれるのは3回に当たっていた3番の小森が死球で退場、5回無死で野市が二塁打して反撃機をつくったときに打てず、最終回バントで二進した三浦がオーバーランして刺されたことだ。両投手共制球力を覚えることが今後の課題だ。

<2回戦> 南部 4-9 桐生
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
南部 1 2 1 0 0 0 0 0 0 4
桐生 0 0 1 1 4 1 2 0 × 9

 南部の先攻も見事だったが、桐生の逆転はもう一つ鮮やかだった。桐生は4点リードされた3回裏、二死二塁に田島をおいて岡田が内角に入ってくるカーブを左越えに二塁打、4回は右前打の蓑輪を中戸がバントで送ったあと、木村が左前に適時打して蓑輪を迎え入れ、差2点と迫った。小刻みながらチャンスを着実に生かして迎えた5回、素晴らしい攻撃で逆転した。この回死球の村岡が二盗、下山四球で、一死一、二塁に岡田がこんどは内角球を右中間に二塁打して同点、蓑輪が2ー1と追いこまれた内角へのカーブを左へライナーの二塁打を放って勝越し、中戸三振のとき蓑輪三盗、捕手の三塁悪投でかえって、逆に2点をリードしてえしまった。南部の西垣が活路を求めようとした武器のカーブを逃さずたたいたあたりさすがうまさを誇る桐生攻撃陣だけのことはあった。西垣は右に左に打ち分ける桐生打線の前につぶれた。
 南部はいきなりバント安打に出た片原が2つの犠打で素早く1点を先取し、2回には皆瀬の左中間二塁打と柴田の二塁手左を抜く安打で2点を追加、3回には西垣のスクイズで1点と計4点を奪って順当な試合運びをみせた。しかし、後半逆にリードされたので、やや気落ちしてか、反撃の気力も見えず、2回途中から救援した桐生の下山に、わずか2安打の1点しか取れず終った。下山の内外角低目を使い分ける投球にすっかり打撃のペースを乱されたのは、せっかく先手をとっていただけに惜しかった。