第58回<昭和51年>全国高等学校野球選手権大会

県予選

<準決勝> 南部 1-3 県和商
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
南部 0 0 0 0 1 0 0 0 0 1
県和商 0 0 1 0 0 0 0 2 × 3

 1点を争う好試合となったが県和商が終盤、やや疲れの見えた南部・吉田を巧みに攻め、勝ち越し点をもぎ取った。
 1ー1で迎えた8回、県和商は先頭の久保が四球で出塁、前山の二ゴロで二封後、小杉啓が右翼線に三塁打、前山が捕手久堀のブロックをかいくぐって決勝点をあげた。続く土橋も外角にはずれた初球に飛びつきながらスクイズを決め、ダメ押し点を奪った。県和商の勝利への執念が吉田の気迫を上回った場面だった。
 序盤は、両チームとも緊張のため、動きが悪かったが県和商は3回、久保の左前打を足がかりに敵失や併殺の間に先制点をあげた。
これに対し南部は5回、右前打の吉田を片山が送り、宮崎が右翼線二塁打して同点とし、息づまる試合展開となった。
 南部・吉田はよく投げたが、県和商のうまい試合運びの前に屈した。

<準決勝> 吉備 5-10 箕島
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
吉備 0 0 3 0 2 0 0 0 0 5
箕島 4 3 1 0 0 2 0 0 10

 箕島・辻本昌、吉備・山崎両先発投手の思わぬ不調から乱打戦となったが、攻撃力と試合運びに一日の長がある箕島が吉備を下した。
 箕島は1回、固くなった吉備守備陣の2失策などで二死満塁とし、押し出しや吉松の走者一掃中越え二塁打で一挙4点。2回にも加点して、早々と一方的な試合運びのの様相を強めた。
 しかし、吉備は0ー7の劣勢にもめげず、3回、制球の悪い箕島・辻本昌を襲い、上松の二塁打などで3点、5回にも2点を加え必死に食い下がった。この反撃は、1回戦から見せていた吉備らしい持ち前のたたみかける攻撃ぶりだったが、箕島は左腕東を救援に送って防戦。東のコーナーをつく投球に吉備打線は以後、1安打に封じられてしまった。
 箕島は序盤の大量点のためか、攻守のいつもの鋭さがなく、大量点後の試合運びに課題を残した。

<決勝> 県和商 2-3 箕島
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
県和商 0 0 0 0 2 0 0 0 0 2
箕島 0 1 0 1 0 0 0 1 × 3

 まれにみる激戦だった。箕島が先行すれば県和商が反撃して同点とした攻防は決勝にふさわしい試合展開。結局、箕島打線がここ一番というところで底力を発揮、食い下がる県和商を振り切った。
 やま場となった8回、箕島は死球の先頭、北野を上川が手堅く送った。一発出れば勝ち越しの場面、二死後、県和商ベンチは辻本昌を敬遠して一、二塁としたが、栗山の一打は鳥居投手の足元を抜く鋭い当り、俊足の北野がスタートよく二塁から本塁を踏んだ。試合はまず箕島ペースで始まった。2回、先頭の西村の打球を県和商左翼手が目測を誤って二塁打とし、赤尾、岩尾の連打で、西村生還して貴重な先取点。4回にもニ死から加点し、優勢な展開を見せた。
 これに対し4回まで無安打の県和商は5回、制球に苦しむ箕島・辻本昌から先頭の赤山が四球を選び、坂本が右前へ初安打。これを犠打で送って一死ニ、三塁とし、ニ死後、山田が右翼線に2点二塁打して同点。一気に劣勢をばん回し、鳥居投手も力をふりしぼって投げた。
 箕島が、鍛え抜いたしぶとい打撃を示したのに対し、県和商は振りがやや大きく6四球を奪いながら決定打が出ず、9回の攻撃も箕島・辻本昌の気迫にのまれた感じで三者凡退した。

<紀和決勝> 天理 3-1 箕島
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
天理 0 0 3 0 0 0 0 0 0 3
箕島 0 0 0 0 1 0 0 0 0 1

 『なんとしても、先取点がとりたい。』尾藤監督は得意の先制パンチで一気にマイペースに持ち込む考えだった。その好機が早々と訪れた。
 1回、先頭の上川と3番辻本が安打を放ち一死一、三塁、天理の福家投手の立上がりを鋭く攻めたが、期待の栗山は三ゴロで併殺された。二回一死後、西村が二遊間に岩尾が中前に連打。福家投手は肩を痛めているといわれ、出来は決してよくない。『これはいける』と応援席はわく。犠打で手堅く二、三塁に送り、北野の一発にかけた。当たりの鋭い打球が転がったが遊ゴロ。この序盤の好機は、無情にも得点につながらなかった。
 『回が浅いし0ー0。結果的には失敗に終わったが、あの場面で他の作戦は考えなかった』と尾藤監督。
 押し気味に試合を進めながら、一発が出ない。『いやな展開だな』と箕島応援席から声がもれ始めた3回、天理の先頭福田が内野安打、新田が手堅く送る。だが、鈴木喜は三ゴロ。『天理も意外と攻めが雑かな』という空気が流れた。続く鈴木康の一打は平凡な二ゴロ。『しとめた』と思った瞬間、野手がはじいて、三塁走者がホームを踏んだ。一番心配されていた守備の乱れ。そして、辻本は続く中野に1ー0から左翼スタンドに入る2点本塁打だを浴びてしまった。失策で気落ちした失投が、残念な一投だった。
 だが、箕島は食い下がった。5回、いきなり久保が左越え二塁打。北野が送ったあと、上川は0ー3から意表をつくスクイズバントを決め久保生還。待望の1点が入った。反撃ムードが高まる。6回にも辻本が中前打で出塁。栗山の犠牲バントで二進、打者赤尾の時、捕逸で三塁へ。箕島ベンチは2ー2からスクイズ。策はよかったが、打球は不運にも投手の真っ正面。辻本が本塁に憤死して追撃はなかった。
 9回、2点リードされた箕島。『ミートだ』『確実にいけ』ベンチの選手から大声がかかる。スタンドに詰めかけた箕島応援団も、あらんかぎりの声援。だが、赤尾右飛、西村投ゴロ、そして最後の打球は遊撃ゴロ。送球が一塁手のミットにスッポリとおさまった瞬間、甲子園出場の念願はちに消え去ってしまった。