第72回<平成2年>全国高等学校野球選手権

和歌山大会

<準決勝> 南部 4-1 和歌山工
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
南部 1 0 1 0 1 0 0 1 0 4
和歌山工 0 0 0 0 0 1 0 0 0 1

 得点機を漏らさず小刻みに加点していった南部が快勝。8年ぶりの決勝進出を果たした。1回、和歌山工の先発、石井のこの試合唯一の四球が、南部の小刻み加点のスタートとなった。この回四球を選んだ先頭の下浦が、犠打、安打で三進、嶋の中犠飛で先制。3回には二死三塁から北川の二塁打で1点。さらに5回、8回と加点、無理のない攻めで「思った通りの野球」(井戸監督)。守りでは復調した背番号10の主戦野村が無四球投球。落差のあるカーブを速いピッチで決めて追い込み、ボールになる直球を見せ球にした後、カーブで勝負、要所を凡打に打ち取り、最後まで和歌山工打線をかわした。バックも外野がよく守り、無失策。
 「いつかとらえられると思いながら……」と和歌山工・岡田監督、速球のあまりない野村の球に振りが大きくなった。4回、二死から寒川が安打で出塁。続く江川が左翼線を抜く二塁打を放ったが左翼手が素早く処理し、生還できず、その後「アウトカウントを間違えた」(岡田監督)という二死からのスクイズが失敗、かみ合わない攻めで好機が消えた。6回、3安打で1点を返したが、流れは南部のまま動かなかった。

<準決勝> 星林 2-0 橋本
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
星林 0 0 0 0 0 0 2 0 0 2
橋本 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

 星林・尾崎、橋本・芝の両投手が互いに譲らず、3回まで両校とも無安打、無四球の投球を続けた尾崎が橋本打線を2安打に抑え、7回に四球と2長短打で手にした2点を守り抜いた。
 星林は5・6回と得点圏に走者を進めながらあと1本が出なかったが、7回にやっと好機をものにした。無死から庄堂が四球で出塁、尾崎の右前安打などで二死二、三塁。星林唯一の一年生先発選手松田が三塁線をきれいに抜く二塁打を放ち、2点を先取。
 橋本は6回まで三者凡退が続いた。7回に大沼が二塁打、9回に山本潤が左前安打を放ったが、いずれも二死からで、後が続かなかった。しかし、強気にコーナーを攻める芝の小気味良い投球とそれを支えた内、外野陣の広い守備範囲、捕手前田の冷静なけん制などは、試合を引き締まったものにした。

<決勝> 南部 2-3 星林
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
南部 0 0 1 0 0 0 0 1 0 2
星林 1 1 0 0 0 0 1 0 × 3

 南部・野村は、不安を感じていた。肩の痛みを注射で抑えられなくなっていたからだ。星林打線は、そんな野村の調子を見逃さなかった。1回、二死から庄堂がカーブを中前にはじき返し、続く武輪が四球。尾崎も無理せず中前打し、あっさりと先制。2回にも先頭1年生の松田が右前打、雑崎、加藤の連打などで2点目。星林が今大会一貫して見せてきた「取れる点は取る野球」は、決勝の緊張も鈍らなかった。
 「普通どおりやろう」。主将庄堂は繰り返しチームメートに言ってきた。初戦の箕島戦にいつもの力を出して勝ってから「普通どおり」が星林の合言葉になった。この試合、ピンチは3、8回の2度。マウンドに集った選手は「思い切って普通にやろう」とだけ確認し合った。尾崎のスライダーは、この日もさえた。自然にシュートする球で打者の体を起こして、外へ逃げるスライダーで勝負。「相手打線は内角に強いと聞いていたから、内角は全部、見せ球にしようと決めていた」と捕手武輪。三振を取った落ちる球はフォークだった。大会を通じて38イニング無四球の制球力もさえる。
 肩を痛めた野村は春から投げられない状態が続いていた。エースナンバーは杉若に譲り、背番号10の不運の主戦。が、チームの柱には変わりはなかった。準々決勝で初先発してから一人で投げ抜いてきた。気力が彼を支えた。
 「野村で勝とう」。南部選手の願いでもあった。その気持が通じたかのように、野村は3回から立ち直った。井戸監督には言わなかったが、下浦にはその痛みを打ち明けていた。「おれたちが守ってやる」「打ってお前を楽にしてやるよ」チームメートは励ました。「ぼくがここまで投げられたのも、みんなのおかげです」。野村は試合後そう振り返った。南部は3、8回にスクイズで1点ずつ返し、最後までしぶとい紀南の意地を見せてくれた。
 試合前、両監督はともに「勝つとすれば3対2ぐらい」と読んだ。実力伯仲、投手のできでどちらにころぶか分からない試合であることを言い当てていた。「普通の心」。それを持ち続けることができた星林の精神力がマイペースで勝つことを可能にした。
 勝利の瞬間、ベンチで竹中雅彦部長と赤坂俊幸副部長は抱き合った。谷口健次監督はイニングを8回と錯覚して、キョトン。ベンチでいちばんあがっていたのは谷口監督だったかもしれない。

全国大会

<2回戦> 中標津 4-5 星林
  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
中標津 0 0 1 0 0 0 1 2 0 0 4
星林 1 0 1 0 2 0 0 0 0 5

 延長10回、星林は先頭の加藤が死球で出塁。続く川口の捕前バントで、加藤が二封されたが、当たっている庄堂が右前安打、一、二塁とチャンスの芽をふくらませ、武輪が左翼線へ二塁打、川口がサヨナラのホームを踏み、もつれた試合の決着をつけた。
 中標津は3点差を背負いながら、7回、山口の適時打で追いあげ、8回には一死二、三塁から立沢の内野ゴロと、岡村の適時打で同点に追いついた。さらに延長10回には、無死二塁から木内が三遊間を抜けそうな打球を放ったが、イレギュラーして二塁走者の森に当たる不運。試合の流れが星林に渡った。
 中標津のエース・武田は球威はあったが、制球力不足10三振を奪いながら6四死球をだしたのが敗戦に結びついたともいえる。

<3回戦> 星林 1-6 山陽
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
星林 0 0 0 0 0 0 1 0 0 1
山陽 1 0 0 0 4 0 0 1 × 6

 山陽はなかなかしたたかだ。1回、新谷が三遊間安打、死、四球で無死満塁と星林・尾崎の立ち上がりを攻め、新田の右犠飛で先制した。5回には失策につけ込み新谷、網本の短・長打でまず2点。さらに四球と新田の右翼線二塁打で2点と、尾崎の投球が高めに浮くところをすかさず狙い打った。
 守っても2回、一死一塁で投前バントを川岡が判断よく二封、併殺。4回の一死一、二塁も遊ゴロ併殺でかわすなど3つの併殺で星林の好機を摘みとったあたりはそつがない。
 星林は7回、二塁打の武輪を二死後、松田が中前安打してかえした1点だけに終わった。この反撃機も松田が川岡のけん制球につり出されて逸機、肝心な場面で川岡を攻めきれなかったのが痛い。前半で山陽の勢いに押され、力を出し切れなかったのは残念だった。