第55回<昭和48年>全国高等学校野球選手権大会

県予選

<準決勝> 箕島 5-0 新宮
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
箕島 1 0 0 0 4 0 0 0 0 5
新宮 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

 箕島・津村投手が上体をそらせ、左腕から投げ込む球が実によく決まった。打線もバットがよく振り切れ、長短9安打して快勝した。
 箕島は1回、二死一塁から島本の矢のような打球が、三塁手のグラブをはじく内野安打。続く打者は今大会第1号本塁打を放った当り屋宮井。期待にたがわず右中間へ二塁打して川口を迎えあっさり1点を先取した。
 5回に先頭打者児島が、右中間を破る二塁打、尾崎が手堅くバントで送ったあと、笹尾が左前打して児島生還。二死後島本が左前打して一、二塁、ここで宮井が再び右翼線二塁打して笹尾をかえした。大野木の一打は内野ゴロとなったが、浮き足だった内野手がグラブからこぼして、さらに2者生還。この回、だめ押しの4点を挙げた。
 新宮は2回無死で植松が左越え二塁打して好機をつかんだが、好調の津村に江崎三振、続く2者も内野ゴロに打ちとられた。3回以後は1安打1四球に抑えられ、遠来の新宮応援席は対大成戦で9回に見せたあざやかな逆転劇の再現を祈って必死に声援したがむなしかった。

<準決勝> 和工 6-0 伊都
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
和工 4 1 1 0 0 0 0 0 0 6
伊都 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

 伊都の主戦宮部は疲れていた。カーブが思うように曲がらない。コーナーをねらって投げてもど真ん中に。前日、準々決勝で市和商打線をわずか4安打に抑える力投をみせたのに。
 和工打線は、これを見逃さなかった。1回一死後、鎌田四球、奥が二遊間安打、中島死球でたちまち満塁、谷口の一打は走者一掃の左中間三塁打、続く高橋も右前打して谷口生還、立ちあがりに一挙4点を奪い、宮部を降板させた。
 2回にも宮部に代わった福田をとらえ、右中間に適時打して1点追加。3回には二塁打の中島をバントと犠飛でかえし、6点目。前半の速攻が勝負を決めた。
 伊都は和工・井上投手のたんねんにコーナーをつく速球を打ちあぐんだ。3回無死から名倉と宮部が連安打したが、坂本バントは三塁封殺、東山遊ゴロで併殺され、好機は一瞬につぶれた。5回にも適失の堂浦を送ろうとして2度もバントを失敗するなど、敗れるときはこんなものか、と思われるほど勝運から見はなされた。

<決勝> 箕島 2-1 和工
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
箕島 0 0 0 0 1 1 0 0 0 2
和工 1 0 0 0 0 0 0 0 0 1

 1ー1の同点で迎えた6回、箕島4番打者島本が左翼席へ勝ち越しの大会第3号本塁打を打ち込んだ。島本自身は今大会2本目この一発が勝敗を決した。
 6回一死後、島本に打順が回ると、身動きもできないほどぎっしりつまった一塁側観覧席がどっとわいた。『何かやりそうだ』期待が一身に集まる。島本はスパイクで打席の土を掘ってマウンドの井上をにらむように身構える。ボールカウント1ー3後、外角にカーブが走った。『カキーン』島本のバットが快音を発した。打球は空に吸い込まれるように伸びて左翼芝生席へ。『やったー』応援席は総立ち、早くも優勝を決めたかのように紙テープが乱れ飛んだ。島本はゆうゆうとベースを1周。仲間もベンチから飛び出し握手で迎えた。
 マウンドの井上は空を仰いだ。投げた球は、決して悪くはなかった。むしろ島本の打撃をほめるべきだろう。
 箕島は1点リードされた5回、投手津村は自ら右前打を放って出塁、笹尾のバントが2度もファウルとなった後、見事にスリーバントを決めて津村を二進させた。続く尾崎がベンチの期待にこたえて一塁右へ痛打、津村が生還して同点とした。この津村の活躍が箕島ナインを盛り上げ、逆転優勝への導火線となった。
 これに対し和工は初回に先制点を奪い、前半は試合を押し気味に進めた。和工は1回、岡田四球。鎌田の送りバント失の後、奥が中前打。中島も左前にきれいにはじき返して一死満塁と攻めた。箕島・津村投手は前日の準決勝で新宮打線をわずか2安打に押さえた時とは別人のように立ち上がりが悪かった。が、動揺をこらえて懸命に投げる、谷口は投手ゴロで鎌田本封されたが、次打者高橋が四球を選んで押し出し。三塁走者奥が両手をあげて生還、三塁側応援席をわかせた。
 『初優勝なるか』和工はこの波にのって勝利をものにするかにみえた。しかし、2回以降は津村がよく立ち直り、散発の2安打に押えた。安打性の当たりも、箕島内、外野の守備に阻まれてしまった。
 優勝した一塁側ベンチを背に、和工チームは黙々とベンチ内を片付け引き揚げて行った。ユニホームを着れない下級生部員が通路にあふれ、バットをヘルメットを受取る。『今度はお前らの番だ。がんばれよ』泥にまみれ、汗をしたたらせた選手たちの声、それにこたえる元気な返事、先輩から後輩へと55回にわたって引き継がれて来た高校野球の息吹が今年もまた新しい部員の体に移っていた。

全国大会

<1回戦> 丸子実 9-4 箕島
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
丸子実 1 0 0 0 4 4 0 0 0 9
箕島 0 0 0 1 0 1 0 2 0 4

 丸子実は、スイングの鋭さに、すばやい走塁を加味して箕島を圧倒した。
 まず1回。二死一塁で、2ー1に追いこまれた堀場は、4球目の外角球を痛打、打球は逆風を疾いて右翼手の頭上を越す三塁打。1点を先取した。そしてこの堀場が5回、箕島バッテリーのどぎもを抜く痛烈な一打を放った。一死後、戸谷二塁内野安打、佐藤の三ゴロはスタートの鋭い戸谷の”足”を気にしてか二塁へ悪投。このあと、堀場はこんどは左翼ラッキーゾーンの金網に直接当たる安打を放って満塁。ここで丸子実は、箕島の動揺を巧みに利用した。一変して、強攻策からスクイズへ。小林宏の投前へのスクイズ・バントを、津村は間に合わない本塁へ投げて野選にしたうえ、悪投が重なって2者生還、3ー1と再びリード。続く深井が積極的に打って左中間へ適時打。一挙4点を奪った。
 箕島は強打の片りんを見せたが、丸子実のバッテリーにうまくかわされたといえる。1回右越え三塁打した大野木が、3回二死二塁の好機に2ー1から、外角へのつり球にひっかかって空振りの三振に終った。打ち気を逆手にとられたかっこう。しかし、4回二死一、二塁からヒットエンドランが成功、津村の一塁内野安打で二塁走者の西村が好走、よく本塁をおとし入れて一度はタイにこぎつけた。だが、一見平凡にみえる小林宏・堀場の合った呼吸からは、遂に大量点が奪えなかった。これも鋭くミートする丸子実と強打する箕島との打法の差といえよう。