第56回<昭和49年>全国高等学校野球選手権大会

県予選

<準決勝> 向陽 7-2 日高
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
向陽 2 0 2 2 1 0 0 0 0 7
日高 1 0 0 0 0 1 0 0 0 2

 前半、積極的に打って出た向陽が着実に加点、梶谷、大畠の継投で粘る日高に決勝した。
 向陽の先制攻撃は見事だった。1回一死二塁から、倉八が右中間を深々と破る三塁打、続く中島も中前に適時打して、またたく間に2点、3回には二塁打、送りバント、スクイズで1点、さらに倉八の右翼線本塁打でこの回2点を追加した。また、4回にも日高守備陣の乱れに乗じてだめ押しともいえる2点など、長打、機動力を発揮して得点を重ねた。
 1回表、2点を先行された日高はその裏、すぐ反撃、二死後前の四球高橋の中越え二塁打で1点をかえした。6回にも一死から前が中前打したが、二盗に失敗。そのあと連続二塁打が出ただけに、この二盗失敗が惜しまれた。

<準決勝> 県和商 2-5 和歌山工
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
県和商 2 0 0 0 0 0 0 0 0 2
和歌山工 1 1 1 0 1 0 0 1 × 5

 和歌山工が地力を発揮、長短12安打を放って県和商に逆転勝ちした。和歌山工は1回に2点の先行を許したが、その裏二死二塁から畔取が中前適時打して1点を返し、2回には四球、敵失などで同点、3回には山中の中前安打を足場に、逆転に成功、5回、8回にも加点した。
 県和商は1回、死球で出た荒駒が送りバント、遊ゴロで三進、納谷の左前安打で還って1点、さらに井村の中前安打で納谷も生還して計2点を先行した。しかし、その後は立ち直った鎌田に散発6安打に押さえられ、追撃を阻まれた。

<決勝> 向陽 7-4 和歌山工
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
向陽 0 0 0 0 4 3 0 0 0 7
和歌山工 0 0 1 0 2 0 0 1 0 4

 『3点を争う試合になりそうだ。』両チームの監督は試合前、口裏を合わせたように話していた。ともに打線の好調を信頼してのことだ。その3点の壁を破ったのは向陽だった。
 1点の先行を許した向陽は5回無死から四球に出た大畠が梶谷のバントで二進したあと、滝本行が遊撃手左へ絶妙のバント安打、正岡四球で満塁としたあと、茨木が右前に安打して大畠がかえり同点。続く、奥田のスクイズで滝本行を迎え入れ、逆転に成功した。さらに、二死二、三塁と攻めたて滝本和の二ゴロが敵失となる間、2者生還し、この回4点をあげた。この裏、1点差に詰めよられたが、6回二死後、制球を乱した鎌田から2四球などで満塁とし、茨木が右翼線へ走者一掃の二塁打を放って完全に勝ちムードに乗った。
 和歌山工は3回、三遊間安打の松下を川口のバントで二塁へ進め、山中が中前に適時打して先行した。逆転された5回にも中前打の松下、四球の川口、死球の鎌田を置いて浜野が右翼線へ二塁打して2点かえし、8回にも高橋適時打で1点を返した。しかし、向陽の梶谷・大畠の続投策にかわされ、昨年に続き甲子園を目前に決勝で敗れ去った。

<紀和決勝> 向陽 1-5 郡山
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
向陽 0 0 0 0 0 0 0 0 1 1
郡山 2 0 1 0 0 0 2 0 × 5

 不運がつきまとった試合だった。強気の大畠主将は試合前のジャンケンで勝ち、迷わず先攻をとった。1回一死後滝本和が郡山主戦の木下から四球を選んで出塁、倉八が中飛に倒れたのち、打者は四番中島、打席に入った中島は木下をぐっとにらみつける。バットは快音を発した。球は右前へ。が、不運。当たりは野手の正面をつき、好返球で中島一塁アウト。41年の第48回大会で郡山と対戦したときも、初回二死満塁の好機にライトゴロで刺されている。どうも紀三井寺球場とは勝手が違う。出ばなをくじく当たりだったのに。
 好守備を誇る向陽内野陣。しかし、意外なところに落とし穴があった。郡山1回二死二塁のとき、羽山が二塁ゴロ。しかし、打球は和歌山大会無失策の奥田のグラブをはじいて、右前へコロコロ。無念。1点を先行された。試合前、選手たちは『グラウンドの土が硬くて、バウンドが変だ』といっていた。これに対して、堀内監督は『グラウンドのせいにしてはいけない』と、戒めてはいたが、それにしても。
 球運に恵まれないときは、こんなものだろうか。1回、さらに郡山の重盗、捕手中島からの三塁送球のタイミングは完全にアウトだった。しかし砂煙が収まって、塁審の判定はセーフ。名手正岡が走者にスパイクされて落球したのだ。右手人さし指の第1関節の先がパックリ裂けてしまった。血が噴き出た。ベンチに戻り、手当を受ける。野手にとって、ハンディとなる指のけが。出場は無理か。しかし、正岡は人さし指のつけ根を強く縛ってグラウンドに馳け戻った。真白な包帯が痛々しい。それでも、三塁を襲う痛烈な当たりを次々とさばき、無失策で守り切った。 
 8回まで散発2安打、無得点。土壇場の9回に、向陽はすべてをかけた。先頭の倉八が一塁線に痛打。しかし、好捕され一死。続く中島の大飛球も中堅手のグラブにすっぽり、絶体絶命。が、主将大畠はあきらめなかった。カキーン。初球をねらった大畠の打球は、遊撃左を破った。さあ一、チャンスだ。三塁側応援団は総立ち、肩を組み、声を限りの応援。打席にはいった梶谷は1ー2からバットを強振、左翼頭上を越す二塁打、大畠が一塁から躍りあがってかえり、4点に縮めた。しかし、永山のライナー性の当たりは、木下投手の正面をつき万事休した。