第68回<昭和61年>全国高等学校野球選手権

和歌山大会

<準決勝> 箕島 7-0 大成
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
箕島 0 0 0 2 0 0 2 2 1 7
大成 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

 箕島が好機に安打を集め、守っては尾藤を救援した原井が好投、大成に快勝した。
 丁寧な投球の山本に、3回まで無安打に抑えられた箕島は4回、左前打の坂本を江川がバントで送り一死二塁。ここで福田が左中間に二塁打にして先制、二死後、安川も左翼線に二塁打して2点を挙げ、主導権を握った。初球ストライクから積極的に打っていく攻撃が功を奏した。後半疲れのみえる山本を攻め、7回には原井の左翼線二塁打と武内のスクイズで2点、8、9回にも加点して勝負を決めた。
 大成は1回、2四球と奈須の左前打でつかんだ二死満塁の好機に山本のいい当たりのゴロが投手正面をつき、先制できなかったのが痛かった。この打球を尾藤が左足にあてて降板、2回から救援した原井からも6安打を奪ったが、適時打がなく涙をのんだ。部員14人の小所帯ながらベスト4まで勝ち抜いた健闘は立派だった。

<準決勝> 耐久 5-8 桐蔭
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
耐久 0 1 0 0 2 0 0 2 0 5
桐蔭 3 1 2 0 2 0 0 0 × 8

 両チームの先発投手の調子がいまひとつで、本塁打を応酬する打撃戦となったが序盤に大量点をあげた桐蔭が優勢に試合を進め、追いすがる耐久を振り切った。
 桐蔭は1回、金持を攻め、先頭の根木が左前打、続く河﨑が初球を左越えに大会10号の2点本塁打して先制、さらに左越え二塁打の中井も犠打と敵失でかえって計3点を奪った。2回は谷地の左越え大会12号の本塁打、3回には安打と2四球で二死満塁とし、救援の森川淳から小松が右中間に二塁打して2者を迎えた。5回には長短2安打などで2点を奪い、突き放した。
 耐久は8回、高田の二塁打を足場に四球、二塁ゴロ失で無死満塁と好機、石谷の中前打と押し出しの四球で2点を取って3点差に詰め寄り、なおも一死満塁。が、三木が二塁ゴロで痛恨の併殺を喫した。2回には山家が左翼へ大会11号の場外本塁打、5回には中越え三塁打の一坪が三木の右前適時打でかえるなど桐蔭を上回る11安打で健闘したが、一歩及ばなかった。

<決勝> 桐蔭 5-3 箕島
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
桐蔭 1 0 0 0 0 0 1 0 3 5
箕島 0 0 0 0 2 0 1 0 0 3

 9回裏二死、5-3とリードされた箕島は走者二、三塁。一打出れば同点だ。桐蔭、鹿嶋がマウンドに、打席には松尾。両校の応援席は総立ち。すごい歓声が紀三井寺球場に響く。その中で鹿嶋は意外と落ち着いていた。「バックを信じて打たせてとろう」。勝負球は一番得意なカーブだった。外角低めへ。松尾が懸命に打った球は二塁ゴロ。がっちりつかんだ河﨑が一塁の吉田へ。「わーっ」と歓声が三塁側に、悲鳴が一塁側にわいた。古豪桐蔭が25年ぶりの甲子園出場をつかみとったのだ。
 桐蔭には、苦しい試合だった。1回に先攻したものの5回には、内野守備の乱れが出て逆転された。7回追いついたが、すぐにリードされた。さすがに逆転の連続で勝ち抜いてきた箕島だ。が、桐蔭の選手たちは、ミーティングでの監督の河野允生の言葉を腹に収めていた。「相手は同じ高校生だ。最後まで自分たちの力を信じてあきらめるな」。「まだ負けた訳ではない」と自らを奮い立たせた。
 9回、反撃の口火は先頭の谷地が切った。左前打。根木ががっちりバントで送る。打席に入った河﨑は投手に向けて気合を入れた。「必ず打つ」。ベンチは総立ちだ。「カーン」。打球は右翼線へ。谷地が三塁を回って本塁へ突っ込む。同点。中井が右前打して一死一、三塁。逆転の好機が続く。
 打者は津呂、4番の意地にかけても、ここは打たねばならない。「思い切り振るだけだ」。1-1からの3球目、カーブをはじき返した打球はライナーで中前へ。河﨑が右手を高々と挙げて本塁を馳け抜けた。さらに吉田も適時打した。スコアボードには「3」。2-3が5-3になった。「ここ一番に弱い」といわれた桐蔭、選手たちは早朝の自主練習を黙々と続けた。どこにも負けない練習量、それにヒーローはいないが、チームワークの全員野球。その「新しい桐蔭野球」が「甲子園」につながった。「先輩たちの伝統を受け継ぎながら、自分たちのチームカラーを加えて新しい伝統をつくりたい」。主将の根木はそういった。
 箕島の戦いぶりも見事だった。主戦・尾藤は、準決勝の大成戦で打球を左足に受けて降板、一晩冷やし続けての登板だった。実は右足も痛めていた。大会前の走り込みで肉離れ。しかし、それを監督である父親にも隠し続けた。この日は、高めにボールが浮く苦しい立ち上がり、1点を先行されたが、主戦の意地で、7回、原井にマウンドを譲るまで投げ抜いた。
 1点の重荷は5回、2安打と敵失などで、あっさり逆転した。追いつかれた7回には代打松岡が中前打で武内をかえし、また突き放した。ここというときに、一人ひとりが役割を果たす「箕島野球」。それが松岡の快打だった。
 逆転された9回裏、楯本、武内が、桐蔭、鹿嶋に連打を浴びせた。江川がバントで送り一死二、三塁、後続は断たれたが、今大会、逆転で勝ち進み、決勝戦でみせた見事な粘りは、紀三井寺のファンに強烈な印象を残した。

全国大会

<1回戦> 桐蔭 2-3 宇都宮工
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
桐蔭 1 1 0 0 0 0 0 0 0 2
宇都宮工 0 0 0 2 0 0 1 0 × 3

 宇都宮工は、相当に鍛えられたチームだ。飛び抜けた選手は見当たらないが、プレーの端々にそれを感じさせた。
 2-2の7回無死一塁で、8番の田宮がカウント2-3後の球をバントの構えから強打、左前へヒット・エンド・ランを決めて一、三塁とした。下位打者だから2ストライクを取られていてもバントで走者を進めるのかと思われたが、ベンチは強攻、田宮も期待にこたえた。続く荒川の三塁内野安打で決勝の1点を挙げただけに、この思い切りのよい攻めは、同点にもっていった4回のスクイズも鮮やかだった。
 桐蔭の攻めもなかなかのものだった。1回に津呂、2回に谷地が適時打し、各1点を奪った。田宮の甘い内角球を小さな振り幅で好打。9回にも、河﨑、津呂の安打で二死一、二塁とするなど、よく粘り再三の好守とともに評価してよかろう。
大会記録 無失策試合 通算104度目