第69回<昭和62年>全国高等学校野球選手権

和歌山大会

<準決勝> 市和商 6-7 智辯
  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
市和商 3 0 0 0 1 0 0 1 1 0 6
智辯 0 2 0 0 2 1 0 0 1 7

 両チーム合わせて24安打が飛び交う打撃戦。相手のミスに乗じた智辯和歌山が、土壇場で市和歌山商においつき、うっちゃった。
 智辯和歌山は9回、一死から2四死球で一、二塁とし、堀口の左前安打で同点。そして10回、先頭の泉が左翼線に二塁打、大井死球、坂上の送りバントを焦った捕手が野選して無死満塁。ここで南方が、終盤になって直球一本やりだった市和歌山商・松本の初球を左前にたたき、サヨナラ勝ちした、2、5、6回と合わせ、好機を確実にものにした智辯和歌山は創部9年目で初めて決勝に進んだが、球を手元まで引きつけ、思い切り振り抜く打撃は迫力いっぱいだった。
 市和歌山商は1回、4長短打を南方に浴びせ、鮮やかな先制攻撃を見せた。リードされた8回には、二塁打と次打者の内野安打で三進した坂東が神前の右前打でかえり同点、9回には、松本のワンバウンドでフェンスに当たる中越二塁打で勝ち越し、勝利を手中にしたかに見えたが、頼みの松本が最後まで単調な技術になり、競り合いに負けた。2回の無死三塁、7回の一死一、三塁好機に、強攻策で無得点だったのが惜しまれる。

<準決勝> 吉備 3-0 箕島
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
吉備 0 1 0 1 0 1 0 0 0 3
箕島 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

 吉備打線が箕島の主戦、尾藤を見事に攻略、58年以来、4年ぶり3回目の決勝進出を決めた。
 吉備は2回、先頭の佐原が中前打、一死後、山本、松本が続けて左前へはじき返し、先取点。箕島、尾藤は前日の対伊都戦の延長16回、217球の疲れのせいか、得意の速球、カーブともに切れ味がいまひとつ。4回には一死から、山本が高めの速球を左翼芝生席に打ち込む、今大会6本目の本塁打で加点。6回には死球の走者が盗塁、犠牲バントで三塁に進み、山本が中前に適時打して小刻みに点を重ねた。
 箕島は今大会、相手に先行される展開はこれが初めて。1回、吉備、芝野投手の立ち上がりを攻め一死一、二塁の先制機を迎えたが、内野ゴロで併殺、5回には二死ながら3連打で満塁としたものの、芝野の内外角を巧みにつく落ち着いた投球に適時打が出ず、完封敗けを喫した。 

<決勝> 吉備 1-2 智辯
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
吉備 0 1 0 0 0 0 0 0 0 1
智辯 0 1 0 0 0 0 0 0 2

 緊張の1-1で迎えた9回裏、智辯は先頭の泉が吉備、芝野の初球をたたき、三遊間を抜いた。大井はすかさず初球を確実に投前犠牲バント。日頃の練習成果が一つずつ実を結びながら好機をふくらませる。坂上も初球の高めの直球をたたいた。球は二塁ベースわきを抜け中前に。一死一、三塁で、次の打者は、準決勝の市和歌山商戦でサヨナラを放ち、この日も3打数2安打と大当たりの南方。「よし、サヨナラ!」智辯ベンチはがぜん盛り上がった。
 吉備のベンチから岩鼻忠が伝令に走った。吉備、林監督からの指示は「勝負するか、くさいところを突くか、はずして敬遠するか」。選手の自主性を大事にして、2年生中心の若いチームに伸び伸び野球をさせてきた林監督は、最大の危機でもその姿勢を崩さなかった。たった3球で招いた危機に芝野は動揺した。芝野の答えは「はずす」。満塁策をとった。
 一死満塁。智辯は今福に代えて、一年生の左打者上出を打席に送った。智辯・高嶋監督は「上出なら外野飛球は十分打てる。ベースに近づいて思い切りたたけ」と激励して打席へ送った。上出は芝野の外角寄りの直球を見事なスイングで中前にはじき返した。三塁から泉が躍り上がって本塁に馳けこんだ。2-1 智辯の鮮やかなサヨナラ勝ちだ。54年の創部以来初めての夏の甲子園出場。全校生徒約1,000人でごったかえす一塁側応援席は喜びで沸いた。
 先取点を取ったのは吉備だった。2回表、吉備は二死一塁から福居が右前に落として一、三塁。納への2球目。一塁走者の福居が果敢に走った。捕手今福は低めの球を二塁へ投げた。これをカットしようとした投手、阿波屋がはじき、三塁走者松本が本塁へ馳け込んだ。重盗成功で先取点。吉備の足技で智辯にいやなムードが覆った。しかし、今年の智辯の攻撃はここから本領発揮する。すぐ2回裏、泉が芝野の真ん中直球をジャストミートして左越えに本塁打して同点に、試合は再び振り出しに戻った。
 吉備、芝野はこの日球の切れがなく、調子は悪かった。しかし、内角へ直球、外角へカーブを投げ分け、打たせて取る投球でしのいだ。7回裏、坂上、南方に連打され、無死一、三塁。芝野-佐原のバッテリーはスクイズを警戒した。今福への2球目、佐原のサインは外角直球。芝野ががモーションを起こした瞬間、三塁走者坂上がダッシュした。芝野が球を投げる前に佐原が立ち上がった。スクイズをはずされた智辯は絶好機を逃し、勝負は終盤に持ち込まれた。
 打のチームといわれてきた智辯。それは投が弱いということの裏がえしでもあった。阿波屋の好投はそんな評判をくつがえすほどのものだった。185cmの長身の左腕から投げ下ろす球は、内外角を鋭くついた。内角のシュートも良かった。
 智辯の試合ぶりはこれまで大味なものが多かった。高嶋監督も「粗削りなチーム」と認める。この粗削りな野球が魅力でもある。甲子園では和歌山大会の勢いをそのまま持ち込み、激しい闘志をぶっつける試合をしてくれることを期待。

全国大会

<1回戦> 智辯 1-2 東北
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
智辯 0 1 0 0 0 0 0 0 0 1
東北 0 0 0 0 1 1 0 0 × 2

 1点を追う東北の前半は、それまで2度の同点機を、いずれもバントのまずさやサインの不徹底からスクイズ失敗で逃していた。しかし、5回、小野寺と高城の安打でつくった一死一、三塁で、堀篭が初球スクイズを成功させ同点。6回には斉藤、橋本の安打などで一死満塁と阿波屋を攻めつけ、小野寺が初球ストライクを狙って中犠飛、決勝点を奪った。
 智辯は、2回に大井、坂上が、橋本の直球に的を絞って連安打、それではと、カーブに切り替えたのを、南方が巧打の左前適時打で先制した。このあたり、打力を重点にチームづくりした成果はあったが、後半は強打に頼るあまり、橋本のゆさぶり投法に巻き込まれた。
 東北といえば、いつも長打が自慢の大味なチームなのに今大会のチームは7バントが実証するように、しぶい野球に変身していた。ここに逆転勝ちの要因があったと思う。