第49回<昭和42年>全国高等学校野球選手権大会

県予選

<準決勝> 向陽 1-3 箕島
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
向陽 0 0 1 0 0 0 0 0 0 1
箕島 0 0 0 0 1 0 1 1 × 3

 後半、箕島が上手い攻めと持前の長打力で宿敵向陽に逆転勝ちした。
 箕島は5回裏一死後に鳥羽が四球を選び、すぐに二盗、古川の投手ゴロを栗原がはじいて一、三塁としたあと、古川も二盗、ここで菅田がうまく一塁線にスクイズを決めて同点とした。
 7回には一死後、威力の落ちた栗原から東尾が左越え二塁打し、二死後、鳥羽が左翼線に殊勲の二塁打を放って逆転、8回も主井の三塁打でダメを押した。向陽は3回表、一死満塁の好機に、吉田の遊撃ゴロで先制したが、このあとは川端の大きなカーブと低目に決るドロップに反撃の芽をつまれた。とくに4回、無死から三塁打を放った富がホームを欲ばって刺され、5回にも二塁打の栗原をおいて森栗が中前安打したが、走塁のまずさからかえれず、追加点のチャンスをのがしたのが痛かった。

<準決勝> 市和商 5-0 熊野
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
市和商 0 3 0 0 0 0 0 2 0 5
熊野 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

 市和商が地力で熊野を押切った。熊野は先発の辻投手が初回3者凡退で押さえたあと急に腕が上がらなくなり、2回から神前にマウンドを譲った。市和商の打線は立ち上りカーブが決まらずスピードのない神前を攻め、野上、白川の連続安打から重盗で二、三塁、一死後岩崎の適時打と山口の犠飛でそつなく2点をあげ、さらに四球と重盗、安打で試合を決めた。このあとは大きなカーブに要所をしめられたが、8回山口の右越え三塁打で安打の岩崎をかえし、山口も土山の犠飛でかえった。
 一方の熊野は野上投手のコーナーをつく速球にバットが合わず、安打1本三塁も踏めずに退いた。ただ最後まで試合を捨てず、きびきびしたプレーは立派だった。

<決勝> 市和商 2-0 箕島
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
市和商 0 1 0 0 0 0 0 1 0 2
箕島 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

 市和商野上、箕島川端両投手の投げあいで決勝戦にふさわしい1点を争う好試合となったが、市和商はわずかな好機にうまく得点に結びつけて栄冠をかちとった。市和商は2回先頭の野上が投手の足元を抜き、白川の三遊間安打で三進、続く上川が遊撃左に内野安打して野上を迎え入れ、先制点をあげた。8回にも無死で上川が右中間を深々と破る三塁打を放ち、中継した二塁手の本塁送球でそれる間にホームを踏み、箕島を突破した。
 一方箕島は野上投手の速球によくバットを出したが、もう一押しが足りず惜しくも念願を果せなかった。4回一死二塁の好機に打順が3、4番へ回ったために、強攻策をとり凡退したが、ここで追いついておれば、3回以後川端が立直っただけに、試合の様子も変わっていただろう。しかし、優勝好捕筆頭の市和商に最後までしぶとく追いあげた闘志はりっぱだった。市和商はエース野上が内角に速球と鋭いカーブを投げ込み、打線も好調で県大会をあぶなげなく乗切ったが、しばしば追加点のチャンスを走塁の失敗などで逃していた。紀和大会では慎重な攻めが望まれる。

<紀和決勝> 田原本農 0 -3 市和商
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
田原本農 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
市和商 0 0 2 1 0 0 0 0 × 3

 市和商はもてる力を出し尽くして田原本農を圧倒した。堂々と大会初優勝、春夏甲子園出場を果した。
 市和商のエース野上は、県大会でみられなかった速い球をびしびし投げ、1回表、軽く田原本農の3人を凡退に押えた。
 さてその裏の攻撃、制球に苦しむ田原本農、吉川投手からまずトップの寺井がストレートの四球を奪った。的場は一ゴロに倒れたが、寺井二進、井田の右飛、野上の四球で二死一、三塁の先制機を迎えた。しかし期待の白川は三振に終わって無為。
 2回にも四球と土山の安打で好機をつかんだが、寺井のいい当りが二塁手の正面をついて併殺、3度目の正直とばかり3回、的場が無死から死球で出塁した。が、井田の打球はまたまた二直で不運な併殺、この回無得点に思えたが、野上の右翼大飛球を右翼手東浦の落球に恵まれ野上俊足を利して二塁へ、続く白川も右中間を深々と破る三塁打、待望の先取点。さらに打者白川のとき、吉川投手が暴投して白川もホームイン。
 4回にも岩崎が初球をたたいて左中間に三塁打、勢いついた山口も二塁打を放って3点目。田原本農はたまりかねてリリーフに遊撃中西を送った。
 一方野上の調子は上々。カーブを織りまぜた速球に、さすがに猛打を誇る田原本農打線も手が出ず、わずかに2安打を散発しただけ。三塁を踏む者が1人もいなかったが最後まで奈良代表にふさわしい闘志をみせていた。

全国大会

<1回戦> 市和商 4-0 宮崎大宮
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
市和商 0 1 0 0 2 0 1 0 0 4
宮崎大宮 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

 宮崎大宮の牧は立ち上がりが悪い。しかし、初回は3者凡退、しかも三振2つを奪う好調なスタートを切った。ところが、2回、牧は先頭打者の野上を四球で出した。これは野上二盗に失敗し、ことなきを得たかに見えた。だが、続く白川の遊撃ゴロを野手がはじき一塁に生かした。まさかこの失策で牧は動揺したということはなかろう。しかし、ストライクが決まらなくなった。牧は上川を歩かせたあと、岩崎に1ー2と有利に立たれ、左越えに二塁打され、先制点を許した。やはり立ち上りの悪さが災いしたといえる。
 先取点をあげて市和商は元気づいた。3回無死一、二塁は逃したが、5回二死から的場の一塁前バント安打を足場に井田の右越線二塁打、野上の中前安打と好打を集中して2点を追加した。
 1点ならともかく、3点差をつけられては、相手が好投手の左腕野上だけに宮崎大宮も苦しい。4回児玉、園田の安打でつかんだ一死一、三塁、9回同じく一死から中島が右中間を深く大三塁打したが、後続打者がいずれも野上の内角をつく速球とカーブに手をやきとうとう1点もかえせなかった。
 大宮にとって惜しまれるのは4回の好機を逸したことだ。ここで同点にしておけば士気はあがり、市和商を苦しめたに違いない。

<2回戦> 今治南 3-4 市和商
  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
今治南 1 1 1 0 0 0 0 0 0 0 3
市和商 1 0 0 0 0 0 1 0 1 1 4

 今治南のベンチは野上の直球を徹底的にねらわせたようだ。1回の先取点は、その速球に堂々と立ち向かっていたのだが、功を奏したといえる。
 村上は第1球を打つ、外角寄りの直球だったが、巧みなミートで会心の右前安打を生んだ。機先を制した見事な初球攻撃である。長野の二ゴロで村上直は二進、3番の左打者広川は1ー3から待球せず、やや外角の直球を流し打って三遊間の安打として一、三塁。
 野上に左人さし指のつめを割るハンデキャップはあっても得意とする速球を快打された市和商バックスの受けたショックは大きかったに違いない。橋本は投手ゴロ併殺の場面だったが、野上から送球をうけた土山は二塁で広川を封殺、しかし返す球を一塁へ低投、村上真がラッキーな本塁を踏んだ。市和商の動揺によって拾った1点である。
 その裏、今治南も、併殺をあせった二塁手の一塁悪送球で追いつかれたが、2回にはまた1点を勝越した。大谷が外角直球を右中間へ大三塁打、すかさず藤原が右へ犠飛を打ち上げた。そして3回にも安打と四球で二死一、二塁と野上を苦しめ、橋本の中前安打でまた1点を追加した。
 好投手野上が3回までに5安打され、3点を失うとは・・・・・・・そこには、今治南が野上の勝負球をあえてねらった積極攻撃と、バットを極端に短く持った打法があったからである。形成不利な市和商も、そのままむざむざと引き下がるチームではなかった。その反撃は今治南の積極攻撃に劣らぬ立派なものだった。7回には二塁打、四球などで一死一、三塁とし、寺井が投前スクイズを決めた。差1点と追いあげた市和商は、9回にとうとう追いついた。山口安打、一死後寺井の三ゴロで山口は二塁へ進む、このチャンスに的場が三前へ内野安打、大谷三塁手が一塁へ低投する間に本塁を踏んだ。
 この大谷の失策が、市和商10回逆転につながった。九死に一生を得た市和商は10回2死から上川が右中間三塁打、力投する曽我部は2ー2から岩崎にカーブで勝負をいどんだが不運にもコースが甘くそれを左中間に打ち返されてしまった。無念の一投というよりほかにいいようもなかろう。9回、大谷のプレーも大きな痛手となったが、それを責めるのは酷だろう。魔がさしたのかも知れない。

<3回戦> 市和商 19-5 大分商 
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
市和商 0 1 0 9 4 0 0 2 3 19
大分商 0 1 0 0 1 0 0 1 2 5

 この大会を代表する左右のエース、市和商の野上と、大分商の河原の投げ合いが見どころのの前評判をよそに、スタートから2人ずつの走者を出して波乱含み。4回に市和商がすばらしい攻撃を実らせた。
 口火は当たっている上川の左越え二塁打、岩崎が形通りバントすると、拾った河原は三塁に送った。よいスタートを切っていた上川は巧みに三塁手の後ろへ回り込みタッチをかわした。岩崎も生きて無死一、三塁。これが河原の狂い出したはじまりだ。山口はすかさず初球の外角球を右へ流し、一塁手の左を抜いた。2回の初打席も一ゴロだったし、これまでの2試合に左へ打ったのは1本だけの山口にこの配球はうかつ。勝越しの1点で市和商は選手の動き、ベンチの作戦が勢いに乗った。
 土山のバントも安打となり、捕手の悪投があって1点、寺井四球で満塁のあと、バントのうまい的場が内角低目の初球をきれいに投手右へころがすスクイズ。一塁送球の間に二塁から一気に土山もかけこむ味なプレーで、完全に河原の気持ちをぐらつかせた。井田のバント安打、野上の一、二塁安打、手のつけようがない市和商の迫力に河原は暴投、ストレートの四球と投球が荒れた。大会前からいわれていたバントでゆさぶられるともろい欠陥を現しただけで、そこへ左足を左翼側に踏み込んで投げるフォームが腰の切れをにぶらせ、球の力を失わせた。
 この4回、市和商は岩崎の中越え二塁打が続いて決定的な9点。5回にも3安打で4点を加えた。
 大分商は河原が打ち込まれてもひるまなかった。平凡な内野ゴロでも、外野へフライにも懸命に走った。キビキビと動き、甲子園の代表として誇りをもってプレーもした。もし2回に同点にしたあと二死二、三塁か、3回無死一、二塁にもう1本安打が出ていたら勝負はどうなっていたか。ピンチを、左人差し指の爪を割る故障にくじけずカーブで切り抜けた野上のがんばりもたたえてよい。

<準決勝> 広陵 2-1 市和商
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
広陵 0 0 0 0 1 0 1 0 0 2
市和商 0 0 0 0 0 0 0 0 1 1

 見ごたえのある投手戦だった。広陵の宇根も、市和商の野上の左手の爪を割っているが『ここまでくれば精神力』といった意気込みが、ピッチングににじみ出ていた。力で勝る野上はこれまでになく慎重で一球、一球に全神経をそそぐように速球、カーブを投げ込んだ。一方の宇根もコントロールは正確で、内角をつく速球とカーブの配球に頭脳を絞った。うまさで野上のしのぐ宇根が、内角球に前日の対東奥戦以上の鋭さを見せていたのは、この試合にすべてをかけようとする一念のあらわれであろう。
 大会随一といわれた大分商・河原に18安打した市和商の好打線もさすがに入念な宇根の投球にはヒットもポツン、ポツン。当たっていた上川でさえ2回の二死一塁ではカーブを空振りし、4回までに市和商は5つの三振を奪われた。安打は2本。
 これに対する広陵も4回まで3安打で、野上のスピードを多少ともあまし気味だった。このあたりまでは、まず互角の前半だったが、5回広陵は下位打者が野上に食い下がった。一死真木四球、生田のバットの折れた一撃が、三塁線をかすめて一、三塁になった。打者は9番の宇根だし、当然考えられるのはスクイズ・チャンスだったが、このピンチに野上-井田のバッテリーは、冷静な警戒心を欠いていたのではないか。広陵ベンチはその気持ちを見透かすように宇根の0ー1後にスクイズを敢行するとあざやかに決まった。先取点をあげたチームは強い。広陵は鋭いミート打法の本領を発揮して野上を攻めた。7回一死満塁で金本が速球に軽く合わせて遊越え安打した。
 2ー0、苦しくなった市和商だが、懸命に反撃して試合は盛り上がる。7回裏一死井田が中越え二塁打した。このあたり市和商の長打力が大いに注目されたが、宇根のうまさはピンチになればなる程深味を出した。打ち気にはやる野上を高目でつって遊飛、大型打者白川も内角球でつまらせ、一邪飛に退けた。8回も市和商は一死から岩崎が左中間に二塁打、山口も遊撃左へ内野安打したが宇根は二死二、三塁で寺井を三振に切った。 
 いよいよ9回。市和商は最後の力をふりしぼった。二死から野上、白川が長短打して1点、上川の二飛も堅くなった野手の落球にすくわれて一、三塁になった。息づまる投手戦もクライマックス。岩崎は1ー1から三塁線を強襲したが、橘が身を呈して取り、一塁へショート・バウンドの送球を金本がうまくすくいあげて広陵は1点のリードを守った。
 広陵は確実なミート打法と宇根の冷静さで、強敵を倒したが、市和商も死力を尽くしての戦いに悔いはなかろう。